優先交渉権
(読み方 : ユウセンコウショウケン)
優先交渉権とは、売り手に対して複数の買い手候補がいる場合に、特定の買い手が他の買い手に優先してM&Aの交渉ができる権利のことをいう。
M&Aにおける優先交渉権
M&Aでは、基本合意書の締結後に、デューデリジェンスや契約条件の交渉が時間とコストを掛けて実施される。 売り手に対して複数の買い手候補がいる場合、買い手にとっては、売り手によって複数の買い手候補と比較して天秤にかけられ、いつまでも契約交渉を撤回される状態のままだと、時間とコストに見合った交渉ができない。 また、売り手にとっても、どこかの時点で買い手候補を絞り、特定の買い手と交渉を進める必要がある。 そのため、一般的には、基本合意書に優先交渉権や独占交渉権を記載するのが通例となっている。
優先交渉権と独占交渉権の違い
基本合意書には、優先交渉権ではなく、独占交渉権という権利が記載されることがある。 独占交渉権とは、特定の買い手だけが売り手と交渉することができる権利のことをいう。 当事者以外の第三者と交渉避止義務を課す権利という点に共通点があるが、優先交渉権が特定の買い手だけに限らず複数の買い手候補に与えられることがあるのに対して、独占交渉権は特定の買い手のみに与えられ、売り手と独占的に交渉できる点に違いがある。
優先交渉権を選択するメリット
買い手のメリット
買い手にとっては、複数の買い手候補がいる場合、優先交渉権を持つことで他の買い手候補より有利に交渉を進めることができる。また、買い手候補が他にいない場合でも、優先交渉権を得ておくことで、後から他の買い手候補が出てきた時に有利に交渉を進めることができるというメリットがある。 他の買い手候補よりも優先的に交渉することができれば、競争による価格の上昇を防ぐことができ、経済的にも大きなメリットがあるといえる。
売り手のメリット
売り手にとっては、独占交渉権ではなく優先交渉権の場合、複数の買い手候補と交渉を進めることができるため、他の買い手候補の存在を交渉材料にして、より良い条件を引き出すことができるというメリットがある。 他の買い手候補を排除しないというメリットを得ながら、優先交渉権を付与した買い手候補に対しては信頼関係を構築しやすくなる。買い手と落ち着いて交渉を進めることで負担の軽減が可能である。
優先交渉権を選択するデメリット
買い手のデメリット
買い手にとっては、優先交渉権が特定の買い手だけに限らず複数の買い手候補に与えられることが出来る性質上、売り手が他の買い手候補とも交渉可能なため、独占的に交渉を進めることができないというデメリットがある。そのため、交渉状況によっては、追加的な条件や提案を提示する必要が出てくる。
売り手のデメリット
売り手にとっては、優先交渉権を買い手に付与することで、他の買い手候補と自由に交渉する権利を制限することになるというデメリットがある。 これにより競争が少なくなることで、交渉力が低下する。最終的な取引条件が不利になる可能性がある。
優先交渉権の期間
優先交渉権には、一定の期間を設けるケースが多い。 一般的に優先交渉権の期間については、2,3ヶ月くらいといわれている。ただし、短ければ1ヶ月、長いと半年くらいまでは許容される範囲といわれる。 期間については幅があるため、売り手と買い手が交渉して、適切な期間を設定することが求められる。
優先交渉権の法的拘束力
基本合意書の締結は、最終的なM&Aの契約締結の前段階で合意されるものである。そのため、基本合意書に記載する優先交渉権について、法的拘束力が認められるかが問題となる。 一般的には、基本合意書について、一部の条項にのみ法的拘束力を持たせるケースが多く、優先交渉権や独占交渉権の付与に関する条項についても、法的拘束力を持たせる事で合意することが多い。
優先交渉権の事例
優先交渉権の法的拘束力に関連して、参考になる事例がある。 2004年、株式会社UFJホールディングスとその傘下のUFJ信託銀行株式会社及び株式会社UFJ銀行(以下、「UFJグループ)という)と、住友信託銀行はM&Aの交渉を進め、基本合意を締結し交渉を開始した。基本合意には当事者以外の第三者との交渉避止義務(独占交渉権の条項)があり、両者は一対一でM&A締結に向けて交渉を進めていくはずであった。 しかし、交渉開始後、UFJグループは、金融庁の業務改善命令を履行するための経営判断として、三菱東京フィナンシャル・グループとの統合の方が自社にとって有利と判断した。そのため、住友信託銀行との業務提携を断念し、基本合意を一方的に撤回するに至った。 住友信託銀行は、UFJグループに対し、訴えを提起し、基本合意の独占交渉権を法的根拠の一つとして、交渉を差し止める訴訟を提起した。地裁では住友信託銀行の主張が全面的に認められ、交渉の差し止めが命じられたが、最高裁では、UFJグループの異議によって訴訟は交渉の差し止めは認められないと判断された。 訴えの請求は認められなかったが、この判決においては、独占交渉権の法的拘束力を否定するものではなく、拘束力自体は認める内容となっている。(最終的な合意の可能性がないと判断された場合には独占交渉権が失効する)。
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